ある昼下がり。
とある病棟のスタッフステーションに
車椅子に乗った患者さんが6人ほど集う。
70〜80代の男女。
疾患の症状で上下肢の麻痺や、意識障害に加えて、認知症の症状がある。
ステーションで車椅子に乗っていても、
目をつぶり寝てしまう。
看護師としてそれを放っておくことは出来ない。
「日中は起きて、夜眠る」
という人間らしい生活のあるべき姿の為に、日中に車椅子に乗ってもらい、ステーションで過ごしてもらう。
……なんて
正直看護師のエゴ。
車椅子に乗ってもらっても、
付きっ切りで何かできるわけではない。
正直言って寝ないように
強制的に起きてもらってる。
正確には
車椅子に"乗せて"、
ステーションに"連れて来て"
"起こす"という表現が正しい。
自分1人に対して、多い時は6人の受け持ち患者、それに加え、ナースコール対応など。
正直忙しい。忙しくて手が回らない事もある。
なーーーんて。言い訳。
だと、自分は思ってる。
どんなに忙しくてもその日受け持ちなら責任持ってケアしたい。丁寧に関わりたい。
って思う。けど出来ないのが現実。
だから、自分の受け持ち患者をステーションに連れてきた時は、精一杯に退屈はさせないようにする。
逆にそれが出来ない時は、ステーションに連れて来ない。
ベッドの頭を起こし、眠らないようにその人のベッドサイドでおしゃべりをしながら電子カルテに記録を書いたりしてる。
自分に余裕があって、患者さんの調子も良くてステーションに来られる時に自分がやるのは
「YouTubeで音楽をかける。」
これだけの事。
「〇〇さんー、好きな歌手は誰ですかー」
80代後半の男性患者に私は問いかける。
「🙃🙃🙃」
反応はイマイチだ。
「〇〇さーーーーん!!!誰か好きな歌手いないのー!!!」
さらに呼びかける。
「(石原)裕次郎かねぇ」
やっと反応する。
よっしゃ!きまり!
すかさず、検索欄に石原裕次郎と打ち込む。
自分でもわかる嵐を呼ぶ男 をとりあえずかける。
イントロが流れ歌が始まる。
するとじーっと聴き込む患者さん。
目をつぶる患者さん。
どう?
なんて聞いてみる。
返事はない。
どうよー?
さらに問いかけてみる。
あぁ……いいねぇ。
温かなお湯に肩まで浸かったような表情で、
ボソッと彼はいう。
寝ているわけではなかった。
きっと、
彼は「あの時」に帰っていたのだろう。
嵐を呼ぶ男は1957年に公開された。
62年前…
彼はきっと僕と同じか、それよりも若い頃。
その頃に帰ったのだろう。
「♫おいらはドラマー やんちゃなドラマー……」
こんな入院中の単調な日々。
そのワンフレーズを聞いて、きっと20代の彼に戻ったのだろう。
そう考えた時なんだか、ハッとさせられた。
彼らの時代は液晶テレビとは程遠く4Kなんて、概念も存在しない白黒テレビに、フィルムの映画の時代。
きっと彼らにとって「推し」と呼べる芸能人の存在は、本当に遠い雲の上のような存在だったのだろう。
今の自分らは手のひらの上でスマホを使えば、
好きな時に、好きな動画をフルHD画質で見ることが出来る。無料で。
ネットを徘徊すれば毛穴まで映る超高画質な画像が転がりまわってる。これまた無料で。
また、ネットを使えばライブ中継が出来てライブ会場と同じ演出が味わえて、Twitterやインスタでは直接リプライがもらえたりして繋がれるなんて、彼らからすると夢のまた夢のような話だろう。
—彼はノートパソコンに目をやる。
「この人よりカッコいい男は知らないねぇ」
そう言った彼の表情には笑顔がこぼれる。
彼はいつも無口で、
家族が来たときくらいしか、自ら口を開くような人ではなかった。
そんな彼の姿に思わずこちらも顔がほころぶ。
よかった。
それだけ伝えて、自分はパソコンに向かい必死にカルテにその様子を書き記しながら、受け持ち患者の記録を終わらせる。
なーんて、仕事中のワンシーン。
タイトルにもしたけど、
音楽の持つ力
ってすごいよね。
楽しいがもっと楽しくなるし、
辛い時には目には見えない言葉の力が、心を軽くしてくれる。
今回みたいに時を操ることだって出来る。
本当に不思議な力を持ってるなぁって思いました。
ちょっと簡単にその体験をブログにまとめてみました。
さぁ、自分が85歳の時。
FAKE ITでテンションが上がればいいな。
ナナナナナイロで旅を思い出せればいいな。
それまで長生きしなきゃな。
頼むよPerfumeさん!
90歳でも武道館でライブしてほしいな!(笑)
なーんてね。
写真は最近食べたラーメン。
美味しかった。